「大丈夫。たまに怒るけど、落ち着いていますよ」
奥様を介護していたご主人は、会うたびにそうおっしゃいました。穏やかな声で、本当にそう思っていらっしゃるようでした。
けれど、週に3回奥様を見ていたデイサービスの職員さんから、私のもとには少しずつ報告が届いていました。お二人の関係が、危うくなってきている、と。
介護の限界は、介護している本人には見えません。

うちはまだ大丈夫だと思うんです。大変なときもあるけど、なんとかやれているので…

その「大丈夫」が、実はいちばん気になる言葉なんです。
今日は、ケアマネジャーとして見てきた2組のご夫婦の話を書きます。
🌿「大丈夫」と言い続けたご主人
ご夫婦お二人の暮らしでした。奥様は認知症から精神的に不安定になり、手を上げたり、杖を振り上げたりすることがありました。落ち着いていれば、とても穏やかで優しい方です。
ご主人は、そんな奥様にとことん付き合っていらっしゃいました。夕方からでも奥様が外へ出ていけば、気が済むまで一緒に歩く。バスにも乗る。疲れるまで一緒に動く。家事もすべてお一人でこなし、料理もお上手でした。
離れて暮らす息子さんには、専門病院への受診を勧めていました。けれどお父様であるご主人が、「自分が見ていれば生活できる、なんとかできているから大丈夫」とおっしゃり、息子さんもその言葉を100%信じて、専門病院への受診には進みませんでした。
時間をかけて、認知症の方への対応がとても上手なデイサービスに通えるようになりました。送迎の職員さんの声かけも上手で、奥様は機嫌よく通っていらっしゃいました。
なんとか、お二人の生活は保たれているように見えました。
けれど、週3回お二人の様子を見ていたデイの職員さんは、少しずつ関係の危うさを感じていました。私のもとに報告が来るたび、私もあまりよくないと感じ、こまめにご主人へ連絡を入れ、奥様がデイに行っている間にご主人に会ったりして様子を伺っていました。
それでもご主人は、「大丈夫。たまに怒るけど、落ち着いていますよ」と。
🌿夜8時、お弁当を食べてもらってショートステイへ
ある日、奥様はデイサービスに行く前から不安定で、怒りっぽくなっていました。
ご主人は、デイに迷惑をかけてはいけないという思いから、叱るような声で言い聞かせました。ご主人も少し興奮していましたが、奥様はさらに興奮していきました。それでも、なんとか通所はできました。
一日を過ごし、帰る時間になったときです。奥様の様子が変わりました。
「家に帰らない。夫は嫌い!」
興奮してそう言い続けたのです。
デイの責任者は、このままご主人お一人の家に帰すのは危険だと判断しました。私に連絡が入り、地域包括支援センターにも入ってもらいながら、その日のうちに受け入れてもらえるショートステイを探しました。
夜8時に契約を済ませ、買ってきたお弁当を食べていただいて、入所となりました。ご主人と顔を合わせると興奮してしまう心配があったため、契約は別のお部屋で行いました。

その後、ようやく息子さんが動き、専門病院を受診。そのまま入院となり、落ち着いてから施設へ入所されたと聞いています。
🌿限界は、介護している人には見えません
このご主人は、一人で介護を抱えていました。息子さんにも危機感がありませんでした。だから受診にも入所にも、なかなかつながらなかったのです。
ご主人自身、まだやれると思っていました。そして、気を張り、疲れ果てて、冷静に判断できる状態ではありませんでした。
こういうとき、家族より先に「もう限界では」「何かあったら危ない」と感じるのは、たいてい第三者です。ケアマネや、事業所の介護士さんたちです。
玄関に入ったときの煩雑さ。匂い。片付けきれないゴミ。そこから感じることも、もちろんあります。
でも私がそれ以上に危うさを感じていたのは、小さなトラブルがあるたびに「大丈夫」「大したことじゃない」「今日は落ち着いてるよ」とおっしゃる、ご主人の姿でした。
本当は、いつ何が起きてもおかしくない。その状況に、まったく気づく様子のないご主人に。
「大丈夫」がいちばん危ない——これは、私自身が自分の身体で知ったことでもあります。65歳、左腕の痺れが教えてくれたこと|「私は大丈夫」が一番危なかった
🌿洒落た浴槽は、いちばん介護しにくい浴槽でした
もう一組のご夫婦の話です。
認知症のあるご主人は、もともとスポーツマンで、がっしりとした体格の方でした。介護する奥様は対照的に小柄で、大きなご主人を甲斐甲斐しくお世話されていました。
ご主人はお風呂が大好きでした。ご自宅の浴槽は洋風の長いもので、縁に頭を乗せて横たわって湯船に浸かったら、さぞ気持ちいいだろうな、という洒落た作り。


この洒落た浴槽、実はいちばん介護しにくい浴槽なんです💦
奥様が手伝いながら、なんとか入浴されていました。けれど少しずつ足が上がりにくくなり、浴槽の出入りを支えるには、奥様の体が小さすぎました。70代とまだお若く、認知症の進みも早かったのです。
🌿「自宅での入浴は、もう限界ですね」
ご家族と相談して、入浴は訪問看護にお願いすることにしました。通院も重労働になっていたので、訪問診療の先生にも来ていただくようにしました。
入浴をお願いしたのは、私が大きな信頼を置いているベテランの看護師さんです。認知症の方への対応は、私の知る看護師さんの中でもトップクラス。時間はかかっても、上手に誘導しながら入浴を続けてくださいました。
3ヶ月ほど経った頃、その看護師さんから報告がありました。
「動きも悪いし、指示が入りにくくなっています。自宅での入浴は、もう限界ですね」
その頃から、夜のトイレの失敗も増えていました。夜中に訴えがあるたび、小柄な奥様がトイレへ連れて行きます。けれど動作があやふやで指示も入らず、汚してしまうことが頻繁になりました。
昼間はデイサービスに通っていたので休める時間はありましたが、夜はゆっくり眠れません。奥様は、少しずつ疲れ果てていきました。
🌿先に動いていた娘さんたち
お二人の娘さんは、離れて暮らしていました。ご両親のことを親身に考え、お母様とこまめに連絡を取り合っていらっしゃいました。けれど仕事もあり、実家までは1時間以上。思うようには通えません。
それでもショートステイを増やしながら、週末には娘さんが交代で泊まりに来る。家族みんなで力を合わせて、お父様を介護されていました。
同居していないご家族は、在宅を続ける危うさに気づけないことが多いのです。でも、この娘さんたちは違いました。お母様よりもしっかりと危機を捉えていて、施設の情報を集め、見学まで済ませていらしたのです。
ただ、介護しているのはお母様です。そのお母様は、まだ大丈夫と思っていらっしゃいました。
🌿そして、お母様の膝が限界を知らせました
以前から膝を悪くして整形外科に通っていたお母様の膝が、限界を迎えました。痛みが増し、手術が必要になったのです。
これはもう、体が限界のサインを出しているということです。
お母様の入院と手術に合わせて、ショートステイを増やしました。退院したお母様が、体力が弱った身体で介護をするわけにはいきません。お母様も、在宅を諦めるほかはありませんでした。
ショートステイをつなぎ、自費のサービスも入れながら、なんとか入所までこぎつけました。それができたのは、早くから施設を視野に入れて動いていた娘さんたちがいたからです。
褥瘡予防マットを運んでくれた人
このケースでは、先生、看護師さん、デイやショートステイの事業所、ヘルパーさん、福祉用具の皆さんが協力してくださり、大きなトラブルもなく、褥瘡(床ずれ)も作らずに入所へつなぐことができました。
最後の最後に助けられたのは、ご自宅で使っていた褥瘡予防のマットを、ショートステイ先まで運んでくれた福祉用具の担当者さんでした。

今、何が必要なのか。ご家族の願いと、目の前の状況を見極めて、あちこちに手配し、お願いしていく。関わった全員が同じ方向を向いて、それぞれにできることを精一杯やったチームワークは、今思い出しても誇りに思います。
そして、仕事をしながら努力を重ねた娘さんお二人にも、拍手を送りたいと思います。
🌿限界のサインは、3つの形で出ます
2組のご夫婦を振り返ると、限界のサインは3つの形で現れていました。
ひとつめ|「大丈夫」という言葉
小さなトラブルのたびに「大丈夫」「大したことじゃない」と繰り返す。本人がそう言えば言うほど、周りはかえって危うさを感じています。もし最近、ご自分が「大丈夫」を何度も口にしているなら、それ自体がひとつのサインかもしれません。
ふたつめ|専門職のひと言
「自宅での入浴は、もう限界ですね」。毎日、毎週、外から見ている人は、家族より先に変化に気づきます。デイの職員さん、看護師さん、ヘルパーさん。その人たちの言葉を、どうか聞き流さないでください。
みっつめ|介護する人の身体
気持ちは「まだ大丈夫」でも、体が先に限界を知らせてきます。腰、膝、眠れない夜。それは、こちらに選ばせてくれない形でやってきます。
もうひとつ、忘れられない言葉があります。
認知症のお母様を、お仕事を続けながら介護されてきた娘さんがいました。ショートステイを使いながら頑張ってこられましたが、最後は入所を決断されました。
お母様が入所されて1か月ほど経った頃、娘さんがぽつりとおっしゃいました。
今考えると、あの時が限界でした。あの時は分からなかったけど、、、。今は、あれ以上は無理だったなと思います
限界は、その真っただ中にいるときには見えません。あとになって、初めて分かるものなのです。
ひとりで見極めようとしなくていいのです。外から見ている人の目を、借りてください。
🌿ケアマネに、こう聞いてみてください
ご主人やご家族が納得して、動く決断をしてくださらなければ、私たちは動きようがありません。
だから、もし少しでも迷っていたら、ケアマネにこう聞いてみてください。

私はまだ家でみられると思っています。もう少し頑張りたい、このまま家で生活を続けたいんです。でも、、、ケアマネから見てどう感じますか?
専門職の目と経験に、耳を傾けてみることも大切です。
決めるのは、あくまでご家族です。その決断を尊重して、全力でお手伝いしていくのがケアマネであり、関わる介護事業者なのです。
🌿入所しても、うなぎも温泉も行けます
入所へつなぐには、介護している方と、お子さんなどのご家族が、一緒に納得して決めることが必要です。長年一緒に暮らしてきた相手と、ずっと家で過ごしたい。その気持ちは、とてもよく分かります。
「入所は可哀想。まだ頑張れるはず。施設は最後の手段だから」
でも、でもね。入所が終わりではないのです。
入所してからもやらなければならないことはたくさんありますし、一緒に楽しめることもたくさんあるんです。近くの公園をお散歩したり、好きなうなぎを食べに行ったり、ちょっとだけ家に帰ってみたり。準備をすれば、温泉へ行くことだってできるんです。介護の手に不安があれば、自費のサービスを使えば可能性はもっと広がります。
そして何より、介護している方の生活を守ること。ご自分の自由な時間を大切にすることが、まず優先されていいのです。それが叶わなければ、施設にいる大切な人と楽しい時間を分かち合うことなんて、できませんから。
施設に入ったあとの暮らしについては、こちらにも書きました。親を施設に入れるのは親不孝?|ケアマネ15年が見てきた「入ったあとの親たち」
🌿「もうヤダ」と思っていい
介護していて疲れたら〜 いつまで続くのかなと不安になったら〜
介護の相手ばかりでなく、ご自分の心の奥底の気持ちに目を向けてください。
私は今、何が不安なんだろう。本音は、もうヤダと思ってるのかな。でも、私がやるしかないじゃない? 本音は、誰かに代わってほしいと思ってる? いい加減にして!って思ってる?
どんな気持ちでもいいんです。こんなこと思っちゃいけない、なんてことはありません。
ダメな気持ちなんて、どこにも無いのです。
だってあなたは、今でもこんなに一生懸命、介護してきているんだから。
🌿まず、ご自分を大切にしてください
少しでも「疲れた」「もう無理かも」と感じる瞬間があるのなら、その本音をケアマネに話してください。一緒に考えていきましょう。
📖 まだデイサービスも使っていない、本人が嫌がって困っている——という方は、こちらもどうぞ

📖 施設のことを少し調べてみたい方は、申し込みから入所までをこちらにまとめています

ご自分を大切にすること。ご自分だけの時間をつくること。それが、何より最優先ですよ。
一緒に、前に進みましょう。
※事例は、個人が特定されないよう内容を一部変えています。
🌸ここまで読んでくださってありがとうございます。
感じたことやご経験があれば、一番下のコメント欄から一言いただけたら嬉しいです🌸
※本記事の一部はAIを活用して作成しています。

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